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ジャーナル

2020.04.22インタビュー

絵本作家 岡田よしたか氏 インタビュー

自分が面白いと思うことを描けば、

子どもも自ずと面白いと感じる

ユーモア溢れる登場人物と常識に捉われないストーリー展開で、子どもを夢中にさせる岡田よしたかさんの絵本たち。『ちくわのわーさん』『うどんのうーやん』などのヒット作は、日本中の子どもたちに愛されている。

独特の世界観を生み出す岡田さんに、子どもの心をつかむ絵本作りについて話を伺った。
 

岡田先生が絵本と出合われたきっかけは何ですか?

20~30代の頃、11年間ほど保育所で働いていたことがあります。保育士免許は持っていませんが、ちょうどアルバイトを転々としていた時期で、ふと保育所の仕事に興味を持ち不認可の共同保育園に就職したんです。絵本に出合ったのは、その時。保育所の本棚にはさまざまな絵本が並んでいました。最初は、子どもたちに読み聞かせするために読んでいましたが、そのうちに自分から手に取って読むようになり、たくさんの絵本、作家さんに出あいました。  

実際に、保育の現場で働いておられたことがあるんですね。

あの頃は、毎日子どもたちといろんなことをして遊びました。一番人気だったのが「人間ブランコ」。これは、私が両手で鉄棒にぶら下がり、足で子どもを挟んでブランコのように揺れるんです。子どもたちは「キャー!キャー!」と言って喜びますし、こちらもだんだん盛り上がってきて一緒になってはしゃいでいました。 他にも、「いとまきのうた」を森進一風に低音の渋い声で歌ってみたり、新生児のオムツ交換の時は芸人の岡八郎のギャグを真似て「くっさー」と言ってみたり。子どもだけでなく、周囲のスタッフも大笑いしていました。  

子どもたちと一緒になって楽しんでおられた様子が伝わってきます。

では、絵本を描き始めたのはいつ頃ですか?
もともと子どもの頃から絵を描くことは好きでした。大学も美術系に進み油絵学科で学んでいましたし、保育所は結局財政難で閉じたのですが、その後も年に2回ペースで個展を開いていました。そのうち徐々に美術関係の人脈が広がり「人人会」という団体に誘われ参加するようになったんです。「人人会」には、片山健さんやスズキコージさんら有名な絵本作家さんも関係があり、展覧会ともなると出版社の人たちが大勢来られます。すると、その中の一人が「絵本を描いてみませんか?」と声をかけてくれたんです。 私はそれまで保育所でたくさん絵本を読んできましたが、「自分が描こう」なんて一度も考えたことがありません。しかも、あの時私が出展したのは、全裸の男性が山や街をあちこち走り回る下ネタ満載の作品です。自分でも正直驚きましたが、どうやら出版社の方はそのユーモアを買ってくれたようですね。「この作品をそのまま絵本にするわけではないんです」と前置きした上で、子ども向けの作品を描くよう勧めてくれました。  

岡田先生の絵本は、食べ物を主人公にした作品が多数あります。

なぜ食べ物に着目されたんですか?
最初は、おにぎりや芋・タコ・南瓜などの身近な食材を絵本ではなく絵画として描いていました。でも次第に、画用紙に描いた食材たちが意思を持って何かこちらにしゃべりかけているような気がして「面白いな」と感じ始めたんです。そこで、おにぎりを主人公にストーリーを作ったのが、2009年発行の『特急おべんとう号』です。最初は、読者にキャラクターを分かりやすく伝えるため目や鼻をつけてデフォルメしようとしたんですが、一度やってみて「これじゃ面白くない」と判断しすぐに辞めました。  

また、大阪弁を話す個性的なキャラクターや型破りなストーリー展開も魅力ですね。

キャラクターたちが大阪弁を話すのは、自分自身が大阪生まれの大阪育ちだからでしょう。私は保育所で働いていたせいか、絵本は「黙読する」というより「読み聞かせる」イメージが強いんです。例えば、小説は文章を書くことで完成しますが、漫才の台本は書くだけでなく実際にしゃべってこそ完成ですよね。私にとって絵本も同じ感覚なんです。 それにストーリーの展開も、子どもの頃から見てきた漫才や落語など大阪のお笑い文化がベースになっています。特に落語家の笑福亭仁鶴さんが大好きでした。私の絵本は、自分が面白いと感じることを物語にしているので、彼の笑いの感性が少なからず反映されているはずです。  

ご自身が「面白い」と思ったことを絵本に描いておられるということですか?

はい、そうです。私の場合、絵本を通して子どもに何かを伝えようとは考えていません。自分が面白いと思うことを描けば、子どもも自ずと面白いと感じてくれるからです。例えば、『ちくわのわーさん』の中で、ちくわの中に犬が入っていくシーンがあります。これは常識で考えるとおかしいことですが、私は自分が面白いと思ったので迷わず採用しました。 昔、『特急おべんとう号』の原画展をした時も、ある年配の男性から「この絵本は、子どもに何を伝えようとしているんですか? 子どものどんな感性を育むんですか?」と聞かれたことがあります。私は、別に何かを伝えようとか育もうとか思って絵本を描いているわけではありません。子どもが読んで楽しんでくれたら、それで良い。自分が子どもの頃のことを思い返しても、面白かったなぁとか、楽しかったなぁという感情が良い思い出として残っているものです。大人は何かと理由や名目を付けますが、子供にとってそんなもの必要ないじゃないかな。ただ単純に、面白い、楽しい、ということを求めていると思うんですよ。  

では、保育士が子どもたちに読み聞かせする時、どんなことに気を付けたらいいですか?

やっぱり読み手である保育士さん自身が楽しんで読んでもらいたいです。読み手が楽しければ、聞いてる子どもも自然と楽しくなりますから。 私も絵本作家の活動の中で、いろんな幼稚園や小学校を訪れ子どもに読み聞かせすることがあります。ついつい大きな反応を期待してしまうんですが、本来はそんなこと気にしなくていいと思うんです。静かに聞いていても、子どもの心の中では何かしら感情が動いているはずですから。気負わず、まず自分が楽しむこと。それが一番じゃないですかね。