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ジャーナル

2020.05.19インタビュー

汐見 稔幸氏インタビュー|これから保育は超面白い!

変化が早く先が見通しにくい時代で私たちは、人間として、地球人としてどう生きるのか、子どもたちに何を提供し伝えていくのか…汐見先生に保育のこれからについて話を伺いました。

世界は今、「保育・幼児教育」に注目している!

そもそも保育という仕事を世界の視点で見ると、とても重要な仕事になってきている、と考えていいんですね。ヨーロッパでは、政治家さんが幼児教育の重要性を訴えていますし、中国やシンガポールなどのアジアでも同様です。『世界中で着目されている仕事=保育・幼児教育』、ってことを若い人たちには知って欲しいですよね。では、なぜ、保育幼児教育の仕事が注目されているのか!? この答えは世界中の先端の研究成果からも導けます。2013年に発表されたオックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン博士の論文では、2030 年くらいまでに調査対象の702の仕事のうち、約47%がなくなっちゃう、というびっくりする仮説が提示されました。半分の仕事がなくなっちゃうという。その調査の中でも『保育・幼児教育などの仕事』はなくならないという結果がありました。これは勇気付けられますよね(笑)。あるいはノーベル経済学賞を受賞したジェームズ・J・ヘックマン博士の研究結果では保育・幼児教育期にどのような支援を受けたかによって、大人になった時の経済的な環境が大きく変わってくるというものもあります。 つまり保育・幼児教育の環境設定が、その子の幸せだけでなく、国の幸せや経済にもつながってくる。それなら力を入れようと思いますよね、保育にも幼児教育にも。

それでもロボットやAI が保育や幼児教育やれちゃうんじゃないか!?という声もありますが、私は「答えはNO! 」と思うんです(笑)。

感性を持った人間をその子らしく育てることは人間しかできない。人間が成長する中で一番身につけなくちゃいけなくて、さらに教えることが難しい能力が『対人関係構築能力』と言われたりします。生きる上で道具を作ったり、使うことも大事ですが『人と協力し、支援しながら、生きていく環境をより良くしていく』為にはこの対人関係の能力が欠かせないんですね。この能力の基礎になるのは『人のことを思いやったり、想像したり、人のために何かをして、それで相手が喜んでくれる姿を見て、自分の喜びになったり』そういった感性です。この辺はどうしてもロボットやAIでは手に負えない。人間が人間同士で協力し、試行錯誤しながら、子どもたちの個性に応じて、磨き上げていくしかないんですよね。だから、保育や幼児教育はまだまだ『人間さんが頑張らなくちゃいけない仕事』だと考えているんです。

保育・幼児教育の仕事って実は自由な仕事で、自分の「好き」や、個性も活かせる。

やればやるほど飽きが来なくて、食いっぱぐれない。この仕事を選んだ学生さんは『もってる』人ですね(笑)。保育の仕事って子どもの発達を理解した上で安心安全な環境を確保し、基本的な発達の支援を行なって行けば、あとは子どもたちの個性と保育者自身の個性との共同作業になってくるんですよね。映画が好きなら映画の中から保育や幼児教育の取り組みを導き出せるし、ファッションや音楽が好きならその文脈から方法論を考えることもできる。運動が好きなら運動から、昆虫や生き物が好きなら自然から。これだけ個性を大事にしていける仕事ってなかなかないですよ保育・幼児教育の仕事って実は自由な仕事で、自分の「好き」や、個性も活かせる。ね。人間はそもそも『人の役に立ったり、人と関わることで幸せを感じるようにできている』といわれます。保育者自身が自分の個性や感性を大事に、子どもたちに充実した発達の環境を提供する。実践の中で、子どもの成長を心から喜ぶことで、子どもたちも大事なことを学びます。『誰かのためにしてあげることが自分の喜びになる』という、これからの時代においてとっても大事な考え方を身につけていく。ここをベースに、日々の試行錯誤を楽しむことですね。刻々と変化していく現在においては正解を確定することは難しい。正解がないから飽きがこない。子どもたちの個性と共に自分自身の可能性も広がることができ、やればやるほど楽しくなってくる。ロボットやAIでは代わりにできないから、20年、30年のスパンではなく100年、200年後も残る仕事。『とっても美味しい、楽しい仕事、それが保育・幼児教育という仕事』です(笑)。
汐見先生は「ぐうたら村」の村長も勤めている。 2012年に設立した「ぐうたら村」は、八ヶ岳南麓の自然の中、保育や幼児教育について学びほぐしたり、学び直したり、保育者のための学びの場、リトリートの場を提供している。 ぐうたらセミナー・ワークショップについては以下のぐうたら村へメールまたはお電話でお問い合わせください。 gutarav@gmail.com 080-6934-8293

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汐見 稔幸Shiomi Toshiyuki 東京大学名誉教授・日本保育学会会長・白梅学園大学名誉学長2018 年3 月まで白梅学園大学学長を務める。専門は教育学、教育人間学、保育学、育児学。 自身も3人の子どもの育児を経験。保育者による本音の交流雑誌『エデュカーレ』編集長でもある。21世紀型の身の丈に合った生き方を探るエコビレッジ「ぐうたら村」を建設中。NHK「すくすく子育て」などに出演中。 最近の主な著書に『「天才」は学校で育たない』2017年(ポプラ社)、『さあ、子どもたちの「未来」を話しませんか』2017 年(小学館)、『汐見稔幸 こども・保育・人間』2018 年(学研)、『0・1・2 歳児からのていねいな保育 全3巻』2018 年(フレーベル館)など多数。